大人の読書感想文・あるいは読書記

~先人の思いや歴史背景なども考えながら本を読んでみました~

『悪魔が来りて笛を吹く』の知られざる真犯人についての考察 1⃣ こちらは2度目に読んだ段階※アップ前に少し修正しています。

~ネタバレ前提で書いています。ご容赦~

まず最初に普通に出来るなら本を読んで頂きたい!と思います。(お子様向けではありませんので、そこは気を付けて頂ければと…)
ドラマ化、映画化されていますが、原作とは話が変わっていますので注意してください。『悪魔が来りて笛を吹く』の知られざる真犯人についての考察  きっかけは、「(黙示録で)天使がラッパを吹く」というものが「もしかしたら天使がラッパを吹くのは “悪魔が現れたぞ” という事でラッパを吹くのかも知れない」と思った事から

 

以下、自分がヒントだと思ったところをあげていきながら、真犯人を考察していきます。(推理を間違えていた所もあります。ヒントや本と照らし合わせながら「ここはどうなんだろう?」と考察しながら読んで貰えれば何よりです。)

 

 


p9
年代からいうと、これは「黒猫亭事件」と「夜歩く」の事件のあいだにはいるべきもの


これはヒントになっていたのだと、後になって思いました。

〇「黒猫亭事件」について(こちらのサイトから引用→http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~kokugo/nonami/99soturon/miyamoto/28kurone.htm
金田一耕介の手紙から物語は始まる。
「顔のない死体」が発見される事件は、隠されている謎のパターンが決まっていると言うのである。
死体と思われる人物と、犯人の入れ替わりである。』
自分が死んだ、殺されたということにしたかったのだから、出来るだけあちこちに、人殺しがあったという証拠を残す必要があった。
『「どんなトリックが隠されているのか?」という疑問の答えは、一人二役
『計画を知らされてはいなかっただろう。』

 

〇「夜歩く」について(こちらのサイトと→http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~kokugo/nonami/99soturon/miyamoto/28kurone.htm

 こちらの口コミから要約させて貰いました→http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~kokugo/nonami/99soturon/miyamoto/28kurone.htm

殺されると知らず、犯罪の片棒を担がされる共犯者。
容疑者と見られた人物たちは全て真犯人に殺されている。
信用できない語り手。

 

 


P20
英輔氏が家を出てから、四十五日たった四月十四日、信州霧ケ峰の林のなかで、男の死体が発見された。
服装持ち物その他から、かねて手配中の椿英輔氏と判断された


「椿英輔」は帝銀事件 - Wikipediaをモチーフに『悪魔が来りて笛を吹く』の中で描かれている「天銀堂事件」の容疑者の一人だった。
(現実の帝銀事件では、犯人は「この付近で集団赤痢が発生したから、この予防薬を飲んで欲しい」と言って青酸カリを飲ませた

 

 

45日たってから見つかっている事に着目しつつ↓


P21
驚くべきことには、周囲の状態や医者の検屍によると、英輔氏は三月一日家を出ると、すぐその足でその場所へやってきて、青酸加里を服用したらしく思えるのに、死体はほとんど腐敗していなかったのである。

むろん、生きているときから見ると、いくらか相好はかわっていたものの~中略~おそらくそれは寒冷な、その土地の気温のせいだったろうといわれている。


なぜ三月一日に亡くなったとしているのか?というのが奇妙だったのですが、服装が綺麗だったからなのかなと考えました。


しかし、それは計画的に行えば、そう見せかける事が簡単に出来る。
“天銀堂事件”のモンタージュ写真によって、身代わりを見繕う事が容易に出来たのもある。

物語の中でも、モンタージュ写真で身代わり・替玉を見つけ出す事が出来た可能性が書かれているので抜粋します。(”当時と今とは違う状況”があったのも、P368から読み取れます)

 

 


p367
(管理人注:金田一の言葉)
「替え玉なんてものはそう容易に見つかるものじゃありませんからね。
ところが椿子爵の場合には、お誂えむきにあのモンタージュ写真というやつがあった。

警部さん、あのモンタージュ写真は、こんどの事件の犯人のために、椿さんに似た人物を、日本中から募集してやったみたいな結果になっているのかも知れませんよ。」


P368
(管理人注:事件を捜査している警部の言葉)
「そうするとたれかが…つまり今度の事件の犯人が、天銀堂事件の容疑者のむれから、いちばん椿子爵に似ている人物を物色して、そいつを子爵の替え玉に使っているんじゃないかというんですね」

(管理人注:金田一の言葉)
「ええ、そう。あのモンタージュ写真に似ている人物がひっぱられるごとに、新聞がその男の住所氏名を発表しましたからね、あっはっは、だから警視庁と新聞がよってたかって、この事件の犯人のために、椿子爵の替え玉を物色してやったみたいなもんかも知れませんよ。」


モンタージュ写真から物色された替え玉が、英輔として殺されたのではないか?

そして替え玉は、このモンタージュ写真から物色された「替え玉A」以外に
替え玉B」(これはもっと前に真犯人が偶然知り合ったものと思われる、“天銀堂事件の犯人”として殺された飯尾豊三郎)がいたのではないかと思いました。

(「替え玉B」飯尾豊三郎、これについては後述します)

 

 


P29
(管理人注:英輔の遺体を確認した、英輔の娘の美禰子の言葉)
「あたしはそれを父だと信じます。いまでもそう信じています。

しかし、腐敗していなかったとはいえ、顔かたちは、やっぱり生前とはだいぶちがっていたんです。
それは自殺するまでの苦悩や煩悶、薬をのんあだとの苦痛のためだとおもいますが、そのときも、誰かがひとが違っているようだと呟いたのをおぼえています。

あたし自身もそう思ったのです。」


この段階では「匂わせているだけかな」と思っていました。

 

 


P34
(管理人注:英輔の娘、美禰子の言葉)
「実際、第何回目かに修正された、天銀堂事件の犯人のモンタージュ写真は、父に生きうつしでございました。それは、不幸なことでした。
しかし、…しかし…警察が父に眼をつけたきっかけは、そのためではなかったのです。誰か父を警察へ、密告したものがあるのです。それは誰だかわかりません。
しかし、ただわかっていることは、そのひとは、うちの者にちがいないということです。
同じ邸内に住んでいる、椿、新宮、玉虫の三家族のうちの、誰かにちがいないということです」


”作中の犯人”の遺書には自分が密告したと書いてあったけれど、
後になって考えてみると警察の邪魔が入るのを恐れて、飯尾豊三郎(替え玉B)を使って「妙海尼」を殺したと遺書で書いていた”作中の犯人”が、なぜ “復讐をはじめる前に” 警察を呼ぶような事をしたのか?と思いました。

(天銀堂事件のモチーフとなった帝銀事件 - Wikipediaは、天銀堂事件とは別種の謎がありましたので、別記事で取り上げていこうと思います。)

 

 


P35
(管理人注:英輔の娘、美禰子の言葉)
天銀同事件が起こった当日、即ち一月十五日の父の行動について~中略~あたしたち誰にもわからなかったのです。いえ、いまでもわからないのです。
~中略~父は一月十四日の朝、箱根の蘆の湯へいくといって家を出ているんです。
~中略~十七日の晩にかえっている
~中略~ところが警視庁で調べたところが、父は全然、蘆の湯へはいっていなかったのです


後になって、英輔は淡路島に一月十四日から十六日まで泊まっていたと判明しましたが、淡路島行きは「飯尾豊三郎(替え玉B)」を使ったのではないか?と思いました。

 

作中では”作中の犯人”と偶然知り合った飯尾豊三郎(替え玉B)が天銀堂事件の犯人となっているけれど、
本当は、英輔が天銀堂事件を行い、偶然知り合った飯尾豊三郎にはただ旅行に行かせただけではないか?

 

作中では、飯尾豊三郎(「英輔と似た人物」であり×しかもたまたま「天銀同事件の犯人」×その上「数カ月の期間で”作中の犯人”と知り合ったとなっている」)は”作中の犯人”と偶然知り合ったとなっているけれど(p450、454)

 

本当は英輔が「英輔と似た人物=飯尾豊三郎」と偶然知り合ったのではないか?

“プロバビリティー(p119でヒントだと思われる部分で使われていた言葉ですが、「何かが起こりうる、あるいは、ある状態になりうる見込み」という意味)”から考えると、その可能性の方が高いのではないだろうか。

 

 


P142
「(管理人注:事件が起きて邸内を調べていた刑事が見つけた)こんなものが庭の奥の防空壕のなかに落ちていたんですがね。」


P143
「これは椿子爵のフルートのケースに違いないというんですね」


P144
「ケースの裏にはってあるきれのしたから、…こんなものが出てきたんだ」
警部がつまみ出したのは、ダイヤモンドをちりばめた黄金製の耳飾りの片方だった。


P145
「正確なことは沢村君の報告をきかんとわからんが、天銀堂事件の際の盗品目録のなかに、ダイヤをちりばめた耳飾りいうのがあるんです。しかも犯人はよほどあわてていたものと見えて、一対の耳飾りのうち片方だけを持っていったんです」


落ちていたのは、天銀堂の盗品だったのだけど、
なぜそれだけを、そんな所に隠しておいたのか?”

 

”作中の犯人”はそのことには触れていなかった。
(天銀堂の盗品自体は、”作中の犯人”が飯尾豊三郎(替え玉B)から取り上げたと遺書に書いてあったけれど、なぜ、それだけを分かりやすくそんな所に隠していたのか?

 

なぜ、天銀堂事件の証拠を見つけさせたのか?
それは、天銀堂事件の犯人を「飯尾豊三郎(替え玉B)」だと確定させ・それで捜査を終わらせて「替え玉A(モンタージュ写真から見繕った犠牲者)」とすり替わった後の人生を安心して過ごす為、ではないか?

 

そしてまた、「一対の耳飾りのうち片方だけを持っていった」という事からも、
天銀堂事件は飯尾豊三郎(替え玉B)ではなく、
英輔自身が行ったのではないかと思いました。

 

 


P154
(管理人注:英輔の娘、美禰子の言葉)
「あれは去年の夏でしたか、三島さんがまだこの家へいらっしゃらないまえでした。あの晩、あの部屋に泥棒がはいって、そこにあった置時計やなんかといっしょに、風神も雷神も持っていってしまったんです。ところがそれから二、三日たって、雷神のほうだけがお庭のすみに捨ててあるのが発見されたんです。」


事件の重要なパーツとなる風神・雷神像。
作中の犯人”が、まだ家に入ってこないうちに盗まれている。

 

 


P157
(管理人注:金田一の言葉)
「タイプライターが、あるんですって?この家に…そして、いったい、どなたがおやりになるんです」

(管理人注:英輔の娘、美禰子の言葉)
「あたしがやるんですわ。先生、どうしてそんな顔をして、あたしをご覧になるんですの。あたしがタイプを打っちゃいけません?終戦後父がすすめてくれたんです」


天銀堂の密告者が密告状をタイプで打っているから、つきとめることが難しいとP149に書いてあった。
そのタイプライダーを家に置くように手引きしたのは英輔。
作中の犯人”がいろいろな事を知る前に。

 

 


P164
(管理人注:金田一の言葉)
「この春、一月のことですがね。椿子爵(管理人注:英輔)は旅行されたでしょう。その旅行からかえって間もなく、君に(管理人注:東太郎に)宝石の売りさばきについて相談されたということだが、ほんとうですか?」
東太郎は顔色をくもらせて、
「そのころなら、あの当時も、警視庁へ呼び出されて訊かれたんですが、たしかにそんな御相談がありました。しかし、子爵は結局お売りにならなかったんです。奥さんがご承知なさらないからって」


金田一耕助はその前に美禰子(管理人注:英輔の娘)から
「母に宝石を売らせようなどということは、駱駝が針の穴をとおるよりも不可能なことです。」
という話(P156)を聞いている。

 

売りさばこうと思った宝石は天銀堂事件で得たものでは無かったか。

 

 


P186
(管理人注:金田一の言葉)
「警部さん、このローマ字の文章(管理人注:密告状)、全部YとZを打ちちがえていますね、これはどういうわけでしょう」~中略~YとZを紫鉛筆で訂正してあるのであった。


後に、タイプライターのキーの配列がスイスとドイツで違うという事から、
作中の犯人”がやったという証拠となったYとZの打ち間違い。
タイプライダーを家に置くように手引きしたのは英輔。

 

 


P209
おかみは番頭の持って来た宿帳をひらいて、ふたりの前に押しやりながら、
「これはあのかたが御自分でお書きにならはった字で、たしか筆蹟鑑定とやらでも、椿さんの字にちがいないいうことになったと思います。」
~中略~
金田一耕助も同じひとの遺書で見おぼえのある、椿子爵の筆蹟にちがいないように思われる。


英輔への天銀堂事件の容疑が晴れる重要なポイントですが、
英輔自身が「飯尾豊三郎(替え玉B)」に書かせたものを自書に混ぜ込んでいたらどうだろう。

 

そして、秌子の意外なエピソードとして字が上手いとあったのですが、

p314に


秌子は机にむかってお習字をしている、秌子はこういう女だが、たいへん字が上手で、退屈なときにはいつも手習いをするのである。


「飯尾豊三郎(替え玉B)」も秌子に性格的に似た部分があるように描かれている事から(後述します)、字はうまく書けていたのではないか?という事も思われました。

以下、秌子と飯尾豊三郎(替え玉B)の性格的に似た部分をあげてみます。

 

秌子について


P46
(管理人注:英輔の娘、美禰子の言葉)
「母は無邪気なひとなんです。赤ん坊みたいなものです。しかし、その母に非常に大きな影響力をもっているのが玉虫の大伯父なんです。大叔父のすることなすことはすぐ母にひびきます。
その大伯父が父を犬か猫なみにしか扱わないものですから、母もつい、父を無視する習慣がついてしまって。…母はいま、それを後悔しています。いいえ、後悔というよりも恐れているんです。
父が復讐にかえって来やあしないかと、子供のように怖れおののいているんです。」


P393
(管理人注:目賀博士(英輔の自殺の一週間後、玉虫の媒酌によって英輔の妻と内祝言を挙げた))
「秌子には法も通らんのじゃ。そのことは警部さんにもおわかりじゃろ。あれはな、法の外に住んでるんですわい」


 

飯尾豊三郎(替え玉B)について


p450
(管理人注:”作中の犯人”の遺書に書かれている「飯尾豊三郎」像)
こいつは、まるで道徳的に不感症のような男であった。
この男にははじめから善と悪との区別がないのだ。
それでは、特別に強烈な悪の意思でも持っているかというと、そうでもなかった。
風貌は穏和で、性格にもどこか眠り男のような頼りないところがあった。


 

 

そして飯尾豊三郎(替え玉B)について描かれている部分で、真犯人との繋がりを感じさせた部分が


P456
(管理人注:”作中の犯人”の遺書に書かれている「飯尾豊三郎」像)
バタヤ部落(管理人注 バタヤ部落について…在日韓人歴史資料館ホームページ こういう歴史もあるんだという事も思います)の掘立小屋の衆落のなかにただひとりで住んでいた。


そういうところに住んでいながら、かれはいつも身だしなみよく、上品に取りすましているうえに、わりに金回りがよく、また金放れも悪くないので、部落の連中から先生と呼ばれて、一目おかれていた。


↑飯尾豊三郎(替え玉B)がこのような生活が出来ていたのは、英輔が金を渡していたのではないだろうか?
「すぐれた風采と、物に動ぜぬ態度」というのでもって、人をペテンにかけて金を稼いでいたのだろうと”作中の犯人”が遺書で評しているけれど、そのような行き当たりばったりで常に金回り良くしていられるとは思えない。
(作中で同じような金の使い方をしていた植辰は、玉虫を金蔓にしていたp265)

英輔はずっと前から「替え玉」による計画を考えていたのではないだろうか?

 


そして、警察が妙海尼(事件のカギを握る重要人物、殺害された)の行方を探っていた時


P267
もういちど、おたまや妙海尼のことを聞いてみました。それについちゃ、別に新しい事実も聞き出せなかったんですが、わたしがいく一時間ほどまえに、やっぱりおたまのことを聞きにきた男があるそうです


という証言が出ている。
そのおたまのことを聞きにきた男は「英輔に似た男」だったという。

”作中の犯人”の遺書によると「妙海尼を殺す指示を与えた」というだけなのに、なぜ無駄にそんな事をしたのか?(犯人はすでに妙海尼がどこにいるか知っていたので、居場所を探る必要はなかった)

 


そして、飯尾豊三郎(替え玉B)が殺された場所は


p377
一年ほどまえにも、さる凶悪な変質者の殺人が行われた場所


でもあった。

英輔は終戦(昭和20年)後、同居して苛め抜かれた。(p18)
一年前は昭和21年。

 

英輔は天銀堂事件を起こす前に、すでに罪を犯していたのではないだろうか…
ただこれは天銀堂事件のようにハッキリした事は何もない。
ただ、”作中の犯人”と違って怨恨のない者を天銀堂事件によって殺していると思われる。

同居して苛め抜かれたけれど、離婚という事も出来ただろうに…(“物語”ではありますが考えさせられます)


そして、玉虫の御前と秌子を殺害したのも英輔ではないか?
玉虫の御前殺害と密接な関りがある花瓶の上の帽子。
P98を振り返ってみると”作中の犯人”は全く気にしていない。
本当の犯人だったら、金田一が探す前に帽子をとって金田一に渡していただろう。

 

そして、秌子殺害についても、”作中の犯人”が死ぬ前日(午後6時頃)に秌子は死んでいるのに
「母を殺害する準備を完了した」
と遺書には書かれている。
(”作中の犯人”が死んだのは、母が亡くなった翌日の午後7時過ぎ)
(警察へ送った天銀堂事件の密告状ではYとZを紫鉛筆で訂正しているのに)

 

一番憎かっただろうと思う父の事さえ、偶発的な怒りにかられて殺したように思われる”作中の犯人”が、計画的に母を殺すとは思えない。

ただ、秌子殺害については「”作中の犯人”の遺書」にあるように真犯人にも迷いがあったのだろうと思う。

 

遺書に書かれている事ではないですが、
金田一耕助が秌子とはじめて会った時の描写が印象的なのであげておきます。


P57
秌子はたしかに美しい。しかし、それは造花の美しさである。
絵にかいた美人のようにむなしいものであった。
秌子は満面に笑みをたたえている。
その笑顔はかがやくばかり美しい。
しかし、それはそうしろと教えられたような笑いかただった。
秌子の瞳は耕助の方へ向けられている。
しかし、その瞳はもっと遠いところを見ているような眼つきだった。


…間違いに気付きました。
”作中の犯人”の「父」を殺したのは10/4の午後7時から8時の間(p327)。
そしてその死体が発見されたのは10/5の深夜1:00頃(p336)、蓄音機のフルートの音色によってだった。

 

風神像で殴られていたけれど、死因は絞殺(p329)。※殴られてから絞殺されたとあるけれど。

 

そして、飯尾豊三郎(替え玉B)が殺されたのは10/8。
まだすべてが終わっていないうちに殺されたのはなぜか?(秌子が殺害されたのは10/10。”作中の犯人”が亡くなったのは10/11。秌子を殺害する前に殺したのは何故か?)

 

10/4の朝9:30に英輔は神戸で目撃されている。だから10/4の殺人は行えなかっただろう。(p 347)
しかし、10/5の深夜、レコードをかけることは出来ただろう。

 

「替え玉B」がすべてが終わっていないうちに殺されたのは、英輔の指示に従わず、勝手な事をしたからではないだろうか?覗き見をして、英輔を脅し、絞め殺したのではないか?そして指輪を奪った。
しかしそれを英輔に見破られたのではないだろうか。

 

「替え玉B」が殺されたのは10/8。
秌子が殺害されたのは10/10。
”作中の犯人”が亡くなったのは10/11。

 

英輔は”作中の犯人”に遺書を作らせてから、「替え玉B」を殺したのではないか?
万が一、出入りする所を見られても大丈夫なように、全てを整えてから「替え玉B」を殺したのではないか?

玉虫殺害の前にあった、砂占いの場面に戻ります。


p73
秌子や東太郎(東太郎のことはよく知らないから)は別として、美禰子や一彦、とりわけさっきクスクス笑っていた菊江などが、蟇仙人の呪縛にひっかかろうとは思えなかった。
それにもかかわらず、かれらも神妙に、放射竹のはしに指を3本おいたまま、目を半眼にとじている。


”作中の犯人”はすんなりと砂占いに参加していた。(暗示にかかりやすいことを示唆しているように思います)

 

 


p71
いまや無我の域に入りかけているらしかった~中略~指は、いま、かすかに振動している。


そしてその砂占いで文字を描くのは「長さ三センチばかりの金属製の錐」(p65)
この占いを行う直前、何者かが2階を歩いていた。(p62)
そして、占いを行った部屋は英輔のアトリエだったところ。(p64)
英輔は上階から「錐」を操作したのではないか?

再掲になるけれど、
玉虫の御前殺害と密接な関りがある花瓶の上の帽子。
P98を振り返ってみると”作中の犯人”は全く気にしていない。
本当の犯人だったら、金田一が探す前に帽子をとってあげていただろう。


そして密室の謎。上階から下に降りる事が出来るようになっていれば、簡単に実現できる。
ドアの上の換気窓から人を絞め殺すよりも(”作中の犯人”の告白と、金田一の推理では、”作中の犯人”が「台」をわざわざ部屋の前に持って行って、そして換気窓から玉虫を呼び寄せて椅子に上がらせて絞め殺したとなっているけれどp427)
犯行が実現しやすくなる、「プロバビリティー」ではないだろうか。
(そもそも室内から見ると、椅子→垂れ下がったカーテン→扉 という状態だったのが目賀博士の供述p127から浮かび上がってくる。ドアの前に椅子は無かった。カーテンが遮っていた。「天井からたらされた、重い真っ黒なカーテン」p64)

 

そして、「遺書」に書かれているのは、元々は英輔が”作中の犯人”に自分の動機と犯行として語ったもので、それを元に”作中の犯人”に罪を着せる為に書かせたように思えました。

「遺書」には事実と違う事がいくつも書いてあった。

 

フルートは英輔が用意したのだろうし、そのフルートに青酸カリを仕込んでおいて、”作中の犯人”に吹かせたのだろうと思われたのもありました。


P472
笛を吹き終わると同時に、この世から去っていったのであった。


 

以上、歴史が縫い付けられていると思って丁寧に読んでいく内に、ヒントが散りばめられているのに気付いたので書いてみましたが

 


p377
一年ほどまえにも、さる凶悪な変質者の殺人が行われた場所


英輔がやったのではないかと思いましたが果たしてどうだったか?
疑惑を感じるけれど、それだけで判断してはいけないと思う。しかし疑惑は残る…

 

そして、一彦や美禰子の父についても
”作中の犯人”が一彦に対しては「ぼくは君の異母兄なんだぜ」と言い(p438)
美禰子に対して「ぼくもいっぺんこの娘を妹と呼びたいんだ」と言った事(p440)

 

作者がこのように書き分けたのは、”作中の犯人”に対して英輔がそのように言ったのだろうと考えるけれど(美禰子については妙海尼は知るすべがないと思うけれど)、これもどうだったろうか…
密室の謎、砂占いの謎もどうだろう…

 

ただ「悪行」というものを描いていたと考えると、一彦に対して行ったことの可能性は書いておかなければいけないように思う。
「フルートを吹く」という言葉には、隠語がある。(女性が言葉で辱められる事が多いようだけれど)

 

『「大きな罪」と思わせるものを騒ぎ立てる事で、被害を訴える声をかき消す』


物語でありますが「冤罪」というもの(同時に、現実で犯罪を追っていくのは難しいことも、考えをめぐらせる事で痛感しました)、
悪行というもの(ヒントから導き出される事によって、悪いことというのはどういうものか?違う角度から見せられたように思いました)も考えさせられました。

 

そして、ここまで考えてみると金田一耕助はもしかしたら「”作中の犯人”の遺書」を事前に見せられていたのではないか?というのも思いました。

 

金田一耕助が間違えた、密室の矛盾。

 

以下は自分の想像が過ぎるかも知れませんが、想像で書いてみます。

真犯人は”作中の犯人”に遺書を書かせるとき泣きついたのだろう。
(”作中の犯人”の遺書を読んで、読者も「本当の悪魔は違う」と思った人も多かった。
同じように”作中の犯人”も思わされたのではないかと思う。)
そして金田一耕助に事前に遺書を見せるように促した。

 

金田一耕助は、いろいろな事を察したのではないか。
美禰子、一彦、一彦の母、そして”作中の犯人”も更に傷付く真相があること。
4人を人質にとられているような状態で、真犯人の策に乗らざるを得なかったのではないか。

 

矛盾を含んだ遺書をそのままにしておくことで、未来で解明される事に希望を託して。
(真相を明らかにしても真犯人は捕まえられない可能性が高く、4人のうち3人は「大事件の犯人の家族」となって、追い詰められて亡くなってしまうかも知れない。残りの一人、”作中の犯人”にとっても、それは避けたい事。)


そしてここまで思って、もう一度、本を読み直してみると
悪魔が来りて笛を吹く」のレコードが事件の始まる前に用意されていた事
(p10「失踪する一か月ほどまえ(管理人注:失踪日は3/1なので2月)に作曲を完成、レコードに吹き込んだものであった」)
(1/15に真相を知ったように見せかけているけれど、つまり違う)

 

その曲は”作中の犯人”を示唆するように作られていた事…
つまり、最初から狙ってやっていた。


そして、そう考えると、
・昨年の夏 風神像が盗まれた。(同じころに”作中の犯人”が妙海尼から話を聞いたとなっている)
・昨年の秋ごろ ”作中の犯人”が椿家にやってきた。
・昨年の10月「さる凶悪な変質者の殺人が行われた」p377
・1/15天銀堂事件。
・2/1(くらいに)「悪魔が来りて笛を吹く」のレコード完成。
・2/20天銀堂事件の取り調べ(しかしその前に「密告状」が警察に届けられている)
・3/1英輔失踪。
・4/14英輔の遺体発見。
・9/25東劇で“英輔に似た人物”が目撃される。
・9/28美禰子が金田一耕助に依頼。
・9/29砂占い。
・9/30玉虫殺害される。
・10/3妙海尼殺害される。
・10/4新宮利彦が殺害される。(夜7時から8時の間)(10/5朝1:00「悪魔が来りて笛を吹く」のレコードがかかる)(10/4朝9:30頃、神戸で“英輔に似た人物”が目撃されている p347)
・10/8「替え玉B」殺害される。
・10/10秌子が殺害される。
・10/11”作中の犯人”が殺害される。


美禰子は真犯人からそれと分からず指示・誘導を受けていたのではないか?(美禰子という名前はどういう思いで名づけられたのか…)

 

「未來に希望を託して」というものも託される方はたまったものではない、というのも思わされました。
託すばかりじゃなく、今の世で出来る事は解決していかなければと思って書きました。
(ただ、しんどくても学ばなければいけない事もあると思いましたし、そしてどうしても「出来る事」「出来ない事」がある。
横溝正史がその時代に出来た事はこういう事だったのだと思います。
自分も出来る事、出来ない事がありますが、出来る事はやっていこうと思います。)